もう かれこれ23年も前の話です。
まだ父も生きていて、現役で仕事をしていました。
私はまだ 結婚したての頃で 更に30代になりたてで よく言えば 若さがあり、悪く言えば とーんでもなく(その年代がということではなく、私自身が)もの知らずで 思い出すのも恥ずかしいといった そんな年頃でした。
その夏に、父と母と私の3人で トンプソンの実家を訪ねようということになり、 一足先にカナダに行っていた 彼の後に続いて 私たちは カナダに向かいました。
トロントに行く途中でバンクーバーに寄りまして。
そこで滞在した船の形をしたホテルにあるレストランは、ある程度格式のあるレストランだったと記憶しています。
そこで 私たちは 海を一望できる窓際ではない席に通されました。
父が 私に 窓際の席へ座れるように 交渉してきなさい。と命じました。
日本語でさえ そんなこと言うのは出来ないのに ましてや英語でなんて・・・ 嫌だよ。 と 私は躊躇します。
そこを いや アツコ せっかく日本からやってきて このバンクーバーでの時間を大切にしたいだろ。それを そのまま ウェイターさんに頼みなさい。 と譲りません。
私は しぶしぶ 中国系のウェイターさんを選び たどたどしい 英語で 希望を伝えました。
私たちは 海に太陽が沈んでゆくのを眺めながら バンクーバーの夕焼けの中で 食事をすることが出来ました。
その時刻の 記憶の中で・・・ 父が アツコ 交渉ということは こういうことなの 憶えておきなさい。と嬉しそうに 私に語っていた姿を思い出します。
交渉・・・っていったって 全て私にさせたんじゃないか・・・と 苦笑いしながらも
私は 父のその嬉しそうな顔をみて 幸せでした。
父は それから8年もたたないうちに 重いパーキンソン病にかかり 10年ほどの自宅での闘病生活の後
6年前に亡くなりました。
父が亡くなった時に 私は 一通の手紙を父のお棺にいれました。
少しでも 少しでも ましになって この世を終わっていけるように祈っていて欲しい と あの世でお父さんに会える時まで 少し こちらで お父さんに 話してあげられるような そんなことをさ もう少し積んでからそちらにいくように努力するよ。
というような内容のものだったと思います。
父が亡くなってから ようやく重い腰をあげ 勉強をし始める始末で 50も越えてから 英検1級に合格できました。
生きているうちに そうすることが出来たなら どんなに喜んだだろうか・・・と 愚か者は悔いからしか学べないということは本当ですね。
なにか するときに お父さん、これ どう思う? と 亡くなっているからこそ余計に問いかけることが多くなりました。
今でもあちこちで 失敗して 恥かいて ドひんしゅくかってを繰り返しながら・・・ でも どこかで 自分を俯瞰してみれるものなら… その俯瞰する目は 父を借りれたのなら。と、願う自分がいるようになりました。
先日、13年ぶりにコピー機を再リースすることとなりました。リース契約5年を終えて 年間費だけで済む蜜月期をしばらく堪能した後に ついに 決断しました。
見積もりが 4つ出てきました。 大きく太字で 9.700円 9.400円 8.700円 8.400円と記されたのものでした。
その再リースはこれまでお世話になっている同じところに決めました。 理由はメンテナンスの人たちが皆、気持ちの良い方だったといことでした。
ですので、営業の人とそのメンテナンス担当者も、私のところへ見積もり説明の際には、同席していました。
私は 8400円なら 5年間がんばってみようかな・・・と 契約することにしました。
リース手続きを終えて ファイナンシャル会社からお決まりの確認電話がありました。
すると 事務的に確認事項を繰り返す女性が、毎月のリース料は 8.400円に消費税あわせて9.240円になります。との説明を一通り聞いて、
これまでのところ何か 質問等はありませんか? と 最後に お決まりのセリフがありました。
私は、 質問になるかどうか定かではないのですが・・・ 自分の落ち度が大きいかと思いながらも わたし・・・ リース料金見積もりの際に これまでどの会社さんからも、必ず消費税込みの金額で示されたことを伝えました。
提案書にはおそらく 小さな字で外税と書かれていたのでしょうが 見落としていたことも詫びながら しかしながら 営業の方から、口頭での 消費税についての説明をまったくうけなかったので 正直・・・ なんというか ちょっと驚いています。 と そのお姉さんに 言ったところでどうしょうもないことではありながらも伝えました。
すると 電話口の方は いえ お金のことですから それは やはり相手先に伝えた方がいいと思います。と 心のマッサージをしてくれました。
では ちょっと 一呼吸をおいていただけますか。 私から コピー機会社さんに問い合わせてみます。と 受話器を置いた。
で 私が 今回契約しようと思ったきっかけにもなった メインテナンスのMさんに電話をして その旨を伝え
同席していた Mさんが 消費税の説明を耳にしていたら 私を正してほしいと 前置きし、今回の自分の心情を述べた。
営業に伝えて 電話をさせます。と
後に 営業のSさんよりお電話が。 説明をしにそちらに伺いたい という声のトーンには当然ながら不服な響きがありありで。 当然だよなぁ・・・と 私でも そんなゴネる客いやだもん。 いやですよ 当然。 でもね これは やはり 私の気持ちはお伝えせねばならぬのよ・・・ と 私は 努めて明るく Sさんに話しかける。
色々とこの度は 本当に不愉快な思いをさせてしまって ごめんなさい。 世間の常識から欠けるところのある自分を考慮にいれながらも この度はお話をさせてください!
・・・いや あの・・・と 電話の向こうの声が ちょっと 変わる。
私 実はこれまで 私のそういう すっとぼけた性質を 皆さん見抜いてなのか リースを組む価格帯のときには必ず内税で提示されてきたのですよ。 ですので 今回 御社の見積書に大きく太字で書かれた金額が 消費税込みの金額と信じて疑わなかったんです。 きっと どこかに 外税と記されていたのでしょうけど・・・ もう 太字しかみえない自分がいました。
で! ここなんです 私 Sさんから 言葉で こちらは 外税で消費税込みでは この価格とご案内いただいていたら 決して いくら 思い込みの激しい自分でも 理解していたと思うんですが・・・ わたし その説明は受けてましたでしょうか。 と 率直に聞いた。
すると Sさんの声は小さくなり・・・・
汗を絞り出すような そんな 声で う~~~ん・・・そうですね ちょっと上のものと その消費税に関しましては かけあってみます ちょっと お待ちいただけますか。 と 苦しそうにあえぐ・・・
そこで 私は こう 言う。
Sさん 私も こんなこと言いたくないの ホントは。ごめんなさい。 あの人 ごねて嫌な人だったなぁ と思われ続けて メンテナンスでリースで、5年もの間、えぐい人だったなぁという印象を残したまま というのも辛い。 つらいけれど でも 私も これをうやむやにしてしまっては 正直 御社に対して 残念な気持ちが残る。
この残念な気持ちを残したまま 5年間 というのは 私にも辛い。
で。 これは わたくしからの 希望!なのですが・・・
・・・はい・・・? と あちらも 慎重な声になる。
この 8400円を 8400円のままにしてくれと お願いするのは いくら 世間知らずの図々しい私でもしてはならないことと 承知してます。・・・・ で、なぜ 今回 決断できたかというと 8という数字に動かされたのだと思います。 きっと 9の引落の数字をみると 今回の出来事が思い出されて 憤懣を覚えるかと思います。
できれば! 8で 始まる数字内に どうか!落としどころをみつけていただけませんか?
・・・ わかりました! 確約は出来ませんが かけあってみます・・・。
というみためは少し毛が薄くなり始めている中年にさしかかっているSさんの その時の声が なんだか とても少年くさいものに聞こえたのは気のせいだったのでしょうか・・・私が あまりにも 老齢闊達な人のそれ・・・と思われるような 人のまねをしているせいだったのでしょうか。
・・・ 私は いったい 何をやっているんだろうか・・・ と ため息をつきながら 父に問いかける。
これは なんか 違うような気もするけれど どう思う? と 問いかける。
翌日 sさんより電話がある。
社の者と 話し、このような ご提案ができるかと。
8.100円 に消費税をあわせて 8.910円で これが 精一杯 わが社でも出来る金額で・・・
という声に
ありがとうございます。 この度は 自分にも落ち度があるのに 声を聞き入れていただき 感謝します。
と 私の言葉に対し
いえ 口頭で説明をしなかったのは 僕の落ち度でもありますし。
と あちら。
父さん・・・ バンクーバーの海に沈みゆく夕陽に照らされながら すてきな 食事をするために 交渉をすることのできた あの日がなつかしいね。 贅沢な時間だったねぇ・・・ 永遠に 父親に守られて生きていけれるんじゃないかと どこかで 思っていたんだから あの頃は・・・ 信じられないね。
時がこのまま 永遠に止まってくれるはずなどないのにさ
それを どこかで 望んでいたんだから 若さ いや 自分の 未熟さ 傲慢さ 色々なものが・・・ おそろしいね。
いま 私は コピー機のリース費のことなんかで 実に 夢のない 交渉事に 神経つかって 生きてるよ。
本当は こんなん したくないよ・・・
でも 父さん どう思う? 今回 一応 あちらに 嫌な気持ち残さないように そして 私の残念な気持ちを残さないように そのあたりを探って 落としどころをみつけるつもりで挑んだよ。 これで よかったかい?
まだまだ?
そうかい また あちらで 色々教えて。楽しみにしているよ。