土地の持つ力。 というものは、あるのでは、ないかな。と、思う。
地縛霊までは いかないながらも、 その土地の持つ雰囲気、性質といったものは 当然 その土地から湧き上がってくると信じている方です。
去年、ある土地に縁があり、購入をしました。しかし、そこに行き着くまで、色々な土地をみて それはそれは長い長い旅路がございました。
まずは カナダ人である夫が 身の程知らずにも 界川にある土地を見つけてまいりまして 私を連れてゆくのです。
その土地は確かに カナダの実家の様にはいかないまでも 自然を背景にした 夫好みの土地でありました。
私がその土地を見たときの最初の印象は 素敵な土地だけれど造成にお金がかかりそうだな・・・と、この土地の上に家を建てていざ住むとなったら その空間は品よくまとめないと合わないだろうな・・・。私はもう少し 元気なエネルギーに満ちた空間が好きなのにな。・・・と思いながらも 彼の熱意に引きずられるように、長い間お付き合いのある不動産屋さんのM氏に その土地の相談をしました。
普通の不動産屋さんは市場に出ていない土地を調べて、持ち主を探し当てるというようなことはしません。
が、M氏は その売りに出ていない土地の持ち主を どんどんと探し当ててゆきます。
そうすると その土地は いまから30年以上前に東京から**省事務次官としてやってきた方が購入されたことが分かり。そうなるとその後のことは、いまのインターネット情報時代 次々と分かってまいります。
その方は札幌を後にしばらく**省に在籍され。その後は九州のある県の知事、そして一番最近の情報では生まれ育った場所近くの街で市長となられ。それを最後に公の情報は途絶える。
ゆえに現在住んでいられる所を辿ることも出来ないのか・・・連絡もつけることは難しい。と、なると・・・あの土地とは縁がないんだな。と、それでも市長の再当選を逃したK氏を応援する後援会なるところも 細々だが 数年前までは活動していたらしい・・・そこに連絡をつけるべきか。などと 考えあぐねていた。
ら、M氏から電話が入る。
「あつこさん、K氏(その土地の持ち主)が 住んでいる場所、大体わかったから。ボク 来週あたりそこに行ってみるよ」
「え? 行ってみるって Mさん。 飛行機に乗ってわざわざ行くの?(神奈川県のベイサイドと呼ばれるあたり)」
「うん だって 電話番号も調べられないしさ そうなると現地に行って 訪ねてみるのが一番手っ取り早い」
「ええええ!」と 驚きながらも
M氏を見送る私。
で なんとか連絡先を探り当てられたのは ***市の市長を終えたそのK氏は、少し離れた一家の本来の地元である町に戻られてた。そこにはK氏一族の不動産、何棟もの物件や土地があちこちにあり、そこに K氏の名前と電話番号が看板に大きく表示されているのだという。
グーグルマップでそれらしき場所を検索した際に、K氏の持ち物のアパートが写り、ものの知らぬ私など、あのようなキャリアを持った人が、こういうアパートで余生を送っていられるということは きっと 市長の座を若い候補者にとられたことが痛手となり すっかりと世を嫌い、世間から身を隠して住まれているのだろうか。・・・気の毒に・・・などと 思っちゃったりし、早合点・・・ どうか Mさん ご本人にあっても あまり ずけずけとしたことは言わないように。なんて釘を刺すなどしたりして。
ところが、現地に行ってみると、それはそれは その町はK家王国ではないか?というような有様で あらゆる場所がK氏の不動産であった。 私たちがたまたまグーグルマップで目にしていたアパートの近くにはK氏の立派な邸宅があり、そこから出てきたご本人に会ってみると、失脚した元政治家、落ち武者のごとくアパートにひっそりと身をひそめ・・・ なぁああんて勝手な私の想像は ばっかじゃないの?と一笑されるくらいの もう現役バリバリ 活力に溢れた大変魅力的な人物であったらしい。
が、結局 その土地は M氏が2度にわたって交渉のために札幌から神奈川県まで足を運んでくださったにも拘わらず、私たちとは縁がなかった。
色々と奔走してくださったM氏と お酒を酌み交わしている際に 普段は仕事のことの後追い三味線(恨み節)をせぬM氏が
「結局 Kさんは 官僚上がりの そういうやらしさ まぁ ああいう頭の良い人っていうのは 決して情では流されないからね。それが ああいう人の生き方なんだし 僕たちが あれこれ言う問題でもないけどさ、あまり いい感じではないね」
「ごめんね・・・ Mさん 実に申し訳ない Mさんには 多くの負担 そして 労力をかけてもらったのに・・・ 本当に嫌な思いをさせちゃって。本当に申し訳ない。この恩は必ず お返しします」と 新たなる 土地探しの意思表示をする私。
・・・と、 それからしばらくして M氏からの電話が鳴る。
「はいはい」と私。
「あつこさん、いやぁ びっくりすることがあってさ・・・ 今回は電話したの」と M氏。
「あの界川の土地あるでしょ。ボク たまたまね あそこの土地がよおおく見える人から仕事を頼まれたんだ。で、今朝 その人の住むマンションから その土地を指さしながら “いやぁ ボク あの土地、売りに出ていない土地を買いたいって人がいてね でも結局だめだった”って話を、何の気なしにしたの。そうしたらね そのお客さんが “Kさんの土地ですよね”って、おっしゃるんだよ」
「え?すごい偶然」と私
「いやいや そんな偶然というよりもね。その人、Kさんが***省の事務次官として札幌にやってきたときに、Kさんの奥さんとテニスクラブでお友達になったんだって。で、その人が言うのには Kさんの奥さんは この世の人とは思えないほど美しくってそれはそれは 知的で あんな女性初めてみた。っていうほどの才色兼備だったらしいよ。が・・・ね ここからなんだよ。30代で早死にしたらしいね。で・・・あっ・・・そうか って 合点がいったんだ。 そういうえば Kさん ボクが “Kさん、そんなに手入れ(伐採などの手入れ)がかかる土地で、お住みになる予定がない土地でしたら、これを機にいかがですか?と言ったときにね。一言さ こう言うんだよ。“分かっているんですがね・・・まだ 売る気になれないんですよ・・・”って」
私は その言葉を聞いたときに あの土地の持つ様子について・・・理解できた。
その上の建物暮らし方は、品よく暮らせる人が似合うだろうな。と感じたことは間違っていなかったのだ。
東大法学部を卒業し、***省官僚のエリートコースと・・・ そこへ 資産を持つ美しいお嬢様との組み合わせ。かつて都会でよくみられた 私たちの両親世代からいまの70代くらいまで続いた、能力高い男性の多くが辿った いわゆる逆玉といわれる結婚の形。またもや 私の勝手な妄想であるが、美しく聡明なお嬢様と若き日のエリートとの組み合わせは 周囲の多くの人々の目に幸福感を与えたのだろうな・・・と。
残酷にも、その美しく多くに恵まれた女性は、30代という若さで病気のために早逝される。30代ということは 札幌を後にしてすぐだ。
あの土地は奥様が好きで好きで買った土地だと その札幌でお友達になられた方がおっしゃっていたとM氏は教えてくれた。
余談ながらも 世間とは狭いもので、その札幌のお友達は私の母と知り合いというのにも驚いた。
初夏の風がそよそよと吹いている日に その土地の前に立ってみたことがある。
いい土地だな・・・と思った。 けれど なぜだろう どこか寂しそうなのだ。
この土地に建つ家を 頭の中で 描き始めた。
静謐な佇まいに、きちんと整えた暮らし方。硬質な家具が似合いそうな家になるな。と 思った。
残念ながら 私たちの 暮らし方じゃない。 どこか にぎやかで 色々な人がやってきて 出入りしてもらって、居心地の良さそうな椅子の上で お行儀悪く座っても許されるような家・・・が 私たちの身に着いた暮らし具合だ。
この私たちの身の丈に合わなかった土地は 30年以上もひっそりとずっと変わらずに札幌の四季を見続けている。ぽっつりと静かに 毎年毎年、雪が降りしきるのをみつめ、春の芽吹きを待ちわび、束の間の夏の心地よい風に身を任せ、そして秋の寂しさを孤独に受け止め繰り返し過ぎてゆく月日を眺めている。
その話を聞いた後、一人で また その土地の前に立ちそんな感情移入を勝手にしてしまったせいか 少し涙が出た。
早く この地に 素敵な家が建ちますように。相応しい人たちと出会い、人間の力と 土地の力が 融合しあえる そんな姿をみれますように・・・と そう願いながらその地を後にした。