自負と自尊心

このフィルムに出てくる二人の女性と、絵付けの陶器や絵は、Thompsonの大祖母と、大叔母にあたる彼女たちの作品です。

Thompsonの祖父の母親、Emilyとその姉であるElizabethは 10歳と13歳の時に孤児となります。

彼女たちの両親は 南北戦争に夫が参加するためにイリノイへと渡り住みました。母親はその時に身体を壊し、27歳の若さで亡くなります。

それからしばらく父親は男手で二人の娘を育てるのですが、南北戦争の最中、一人の兵士として参加しながら娘二人を育てることに限界を感じたことと、また、自分自身の命も長くないと悟り、父親は二人の娘を、母方の親戚へとあずけます。 それで カナダへと 幼い二人は肩を寄せ合い、長い長い時間をかけて、アメリカから渡ってくるのです。

そこで 初めての 身を寄せる家庭で、思いのほか彼女たちは大切に育てられました。

姉のElizabethは活発で、利発。 容姿の美しさは妹のEmilyのほうに多く能わってしまったようですが、二人の姉妹は仲良く、そして固く結ばれた絆で、1880年代から1900年代の大きな時代の流れに、押しつぶされないように生き抜いていくのです。一度本当の親から違うところへと引き取られ、またもや 最初の親代わりの方が亡くなり、次の人たちに引き取られます。ですので2回彼女たちは保護者を失くすのです。しかし、幸運なことに 実の母親が残していったものと、この最初の母方の人のまとまった遺産が、彼女たちにアイルランド貨幣で残りました。その遺産は法に基づき、彼女たちが最終の教育を得る年齢になるまで、しっかりとした機関で管理されます。

そして 2回目の養父母になってくださった方々のところに身を寄せる頃には、二人は若さと、世の中を渡って行ける知力を持つ年齢となっていました。

二人は、おそらく 色々と相談をし、悩み決断をしたのだと思います。

妹のEmilyは、絵付けの道へ。 そして姉は 水彩画の道へと 専門の進路を決めるのです。

ちょうど その 1800年代が終わろうとしている時代は、クロードモネや ゴッホといった そういう画家たちが世を去ったあたり・・・

芸術が、まだ 一般の人々にとっても生きてゆく手段に結びつきやすかった時代だったのだと読み取れます。

親のいない女性二人が選んだ道として、手にした遺産を賢く遣い、自分たちの生きる糧にできるようにと きっと 手と手を取り合って離れることなく 必死に生き抜こうとしていたのだな。と彼女たちの残していったメモや手紙や また 家族内での思い出話を寄せ集め、想像が出来ます。

彼女たちは とても賢く 世の中を渡っていたようです。・・・と、いうのも いい人たちに囲まれて 若き日々を過ごしていたことが 色々な写真や文からわかります。

写真からの様子でみてとれるのですが、威厳を崩さずに、自尊心を大切にしながら いい品物を身に着けているのです。身繕いの費やし方を知っている。Ladyというのでしょうか。 決して馬鹿にされない、低くみられない 女性なら、すきをみせない着こなしというのかな・・・。そういう 美しい二人姉妹という様子で 紳士的な人たちに囲まれて写っている写真とか。 孤児であった二人がここまで しっかりとした存在でいることの方に 私は 不思議さを感じ、もっと この二人のことを知りたいと思ったのが 今回のこのフィルムで表現をしました。

そして 妹のEmilyはカナダの銀行員と結婚をします。その時に、その時代の特徴ですね。第一次世界大戦が始まる前あたり 1900年代前半には そういう方も中にはいたかと思うのですが、 妹の結婚ではありながらも、姉も一緒にと 結婚先の離れに 姉も住むこととなります。 常に一緒に生きる。と 誓い合った二人は そういう形をとりました。

Emilyには 男の子が一人出来ます。 それが Thompsonの母の父親。つまり祖父です。彼が10歳の時に Emilyは結核で亡くなります。

それ以後、姉であるElizabethが 母親代わりとなって彼を育ててゆきます。 その幼い男の子が成人し、妻をめとり、トンプソンの母親が生まれてからも彼女が16歳になるまで アント ナニー (Elizabethのあだ名)として79歳でこの世を去るまで、 トンプソンの母親のその一家と暮らします。トンプソンの母親にとっては実の母よりも あらゆる面で大きな影響を残してくれた人だそうです。

絵を描くことを生業として、そして 色々なことに長けた女性だったそうです。 あの時代に高価なカメラを購入し、写真を撮るために自転車を乗り回し、画の材料にするようなものから 他のことも仕事としていたのでしょうか、自立の道をしっかりと歩く活動的な人でありながら、また エチケット ハウスキーピングの基本 また Ladyとしての在り方も美意識高く持っていました。それらを のみこみがよく 気立ての良い 可愛い姪に 懸命に仕込んだのだと思います。

わたしは 時々、トンプソンの母の佇まいに触れるときに・・・・ カナダの田舎町で、その頃は農業をしていた両親のもとで育ち、どうして この人は こんなにエレガントなのだろうか・・・ 何が彼女をそうさせるのだろう。 自分で学び取って身に着けていったのだろうか? と不思議でなりませんでした。

その蔭には、Aunt ナニー Elizabethの存在があったのだ。と、義母が亡くなり、彼女の日記などからそういうことも知ることができました。

自負と自尊心 その二つは あまり強すぎても 困りものでありながらも

自尊心を失くすと、女性はたちまちに流され 下流に落ちていってしまう・・・と 激動の時代に、必死に流されまいと 二人で手を取り合って生きた 姉妹の健気さが 絵からも 伝わってきます。

我が家には 実は トンプソンの父方の祖父が アメリカで、少し名前を残した画家だったので、彼の作品が数点あります。聞くところによると 価値のあるものらしいのですが、 でも 私は 彼女たちの この ちょっと優し気で 素人っぽいタッチでありながらも 健気なタッチが すごく好きなのです。 正直 彼女たちの作品に癒されているな・・・と思う自分がいます。